「脂肪を落としたい人々のために……トマトダイエット」

 わたしは何十回という失敗の後、ようやくにして、タバコから決別できた。その経過については、「禁煙に挑戦する人々のために」というわたしの小文に紹介されている。


 それは、恩師にまつわる貴重な体験と、わたしの編み出した治療法が奏功した結果であった。
 いくつかの、小さな、しかし強い意志を必要とする人生の目標が、少しづつ解決していくことは、我ながら嬉しいことである。
 しかし、一つのことを解決すると、別のところに又悪しき性癖が芽を出してくる。この原因は、根本にあるその人の性格とか、人格に問題が潜んでいる故なのだろう。


 わたしの場合は、タバコを止めたとたんに、体重が目に見えて増えはじめた。
 タバコが、じつは体重の増えるのを防いでいたとすれば、タバコそのものは、相当の身体毒であり、それを断つことが出来たことは、じつに画期的なことであった。


 しかし、主として、肺ガンを心配してタバコを止めたことが、次は糖尿病やその他たくさんの病気の原因になる肥満を引き起こすことは、また、やっかいなことであったのである。


 こうして、わたしの次なる目標は、体重、脂肪との戦いとなった。そして、これもタバコと同様、わたしが何度も挑戦してはねのけられた戦いであったのである。
 しかし、物事には妙に潮時というものがある。長い間決着が付かなかったことがいともあっさりと解決することが実に多いのに驚くのである。その意味でも悪い癖を矯正するために廻りが極端に慌て、行き過ぎたプレッシャーをかけることは厳に慎まねばならない。例えば、不登校もそうでしょうし、アルコール中毒もそうでしょう。周辺がいかに根気強いかが、勝負を決めるような気がする。


 このわたしの体重との戦いもそうだった。じつはそれほど思案を巡らすこともないほどあっけなかったのである。
 その理由は、決意したその時にたまたまわたしの目の前に、一見「果物に見える野菜」が目の前に転がっていたからである。
 知り合いの日野郡の方が送ってくれていたトマトが目の前にあったのである。聞くと、トマトは日野郡の特産品であるという。


 わたしは、とっさに閃いた。地産地消、日野郡特産のトマトでダイエットに挑戦してみよう。


 わたしのトマト・ダイエット大作戦が始まった。
 わたしは、それまで朝食をとらない習慣があったが、その時から、昼、夜、夜食とも、トマトと塩とビールだけで一日を暮らすことになった。
 そして、一ヶ月間で、20キロの減量に成功した。
 タバコを止めてから70キロから85キロまで、都合15キロ増えたが、このトマトダイエットのおかげで、85キロから65キロまで落ちたのである。
 身長は2センチ伸びた。これは、それほどまでに重力が下方に効いている証拠でもあった。便の色は赤かったが、便通はすこぶるよかった。
 65キロに体重が落ちたときは、わたしは空中を飛ぶように走っていた。


 今は、一日一食(夕食)の生活を出来るだけ維持して、この体重を守っているつもりだが、少しづつ増加しているのは、ほぼ毎日夜食を午後10時頃に摂るせいである。


 二つ面倒なことがある。
 一つはこのダイエットの必要条件として、奥さんを側に置かないことである。奥さんがそばにいたら、空腹の余りすぐ、夜食を要求するからである。別居をすることがこのトマトダイエットの大切な必要条件である。
 今一つは、このダイエットが成功してから、春に限局していた「わたしの花粉症」が、一年中に延伸したことである。寒冷蕁麻疹というか、ちょっと冷気に当たると止めともなく鼻水が流れクシャミが連発するのである。
 もっとも、一年中、我が家を掃除しないせいもあって、ダニ過敏症も合併しているのだろう。